Talking about unheated ruby

1. ダイヤモンドではだめなのか

日本人はダイヤモンドが好きですね・・・

特に婚約指輪といえばダイヤが定番です、その影響もあって、日本ではダイヤは宝石の王様のような位置づけになっているようです。

海外でもダイヤはそれなりのステータスをもっているようですが、例えば日本のように「婚約指輪=ダイヤ」というほどではないようです。いまでも婚約指輪や結婚指輪はダイヤと相場が決まっていますし、そう遠くない昔私は、テレビで“Sweat Ten Diamond”というCMも目にした記憶もあります、あれは確か「結婚10年目にダイヤを10個あしらったネックレスを奥さんに送りましょう」という、デビアス社のキャンペーンの一環だったと記憶しております。

そういえば「婚約指輪は給料の3か月分」というキャッチコピーもデビアス社が考え出したものです。つまり日本人のダイヤ好きは、デビアス社の戦略的な広告によって作り出された現象といってよいでしょう。

ダイヤモンドという宝石について考える場合、デビアス社の存在は大変大きく、同社抜きにダイヤを語ることはできません。例えば同社の市場占有率です、近年ダイヤ市場における同社の占有率は徐々に下がってきていますが、それでも40%程度のシェアを持っているようです。かつて90%近い占有率を持ち、同社によってダイヤの相場が人為的に作られていた時代もありました、いまでこそシェアは落ちていますが、それでも圧倒的な価格の統制力をもっているといってよいでしょう。

私たちがダイヤを運用対象として見る場合、この事実は重要な意味を持ちます。

つまりダイヤモンドは中央銀行によって供給量がコントロールされている紙幣と同じく、デビアス社によって供給量のコントロールが効いているといってよいでしょう。例えるなら売り手と買い手以外にデビアスという第三者がいて、その第三者に財布の紐の片側を握られている構図といえるかもしれません。

このようにある種の歪みをもった商品を、私は投資対象にすべきではないと考えております。

ではダイヤ以外でどのような宝石が投資に向いているのでしょうか。宝石は現物資産の中でも持ち運びの容易さ、さらに美しさといった点で群を抜いているように思います。ただ宝石の価値の源泉がその希少性にあるという点を考えますと、自ずと「どのような宝石が投資に向いているか」についての回答はみえてくるのではないでしょうか。

2. どのような宝石が投資に向いているのか

そのような観点で宝石をみる場合、一つ重要なポイントがあることが解ります、例えば同じ現物資産であるクラシック・コインと比べてみましょう。コインの場合(偽造しなければ)新たに造ることはできず、いったん収集家の手に収まってしまえばそれっきりで、所有者が売りに出さない限り、私たちはコインを手にすることはできません。これに対して宝石はどうでしょうか、コインと宝石の違いはここにあると思います、コインは新たに造ることはできませんが、宝石は違います。鉱山があり、そこで掘る人がいる限り、新たな宝石は次々に市場に出てくるわけです。

その時点で希少性が高いと考えられていた宝石も、このように新たな鉱山が開発されれば、その希少性が損なわれるという可能性については意識しておくべきではないでしょうか。

ただし宝石というものは、世界中どこを掘っても出てくるというものではありません、例えばかつて海底にあった石灰層にアルミやクロムといった金属が抱かれ、なおかつ数万年~数億年という単位の時間をかけ、高い圧力と熱が加わることによって結晶は成長してゆきます。しかもその地層が地殻の変動によって地表付近に現れ、はじめて人間が採掘可能な状態になるわけです。

ですから世界中どこにでもあるいうわけではなく、例えばルビーであればミャンマーの、さらに一部の地域。あるいはタイやアフリカのモザンビークなど、特殊な環境がそろった地域でしか産出されません。

ただし世の中にはさまざまな宝石があります、例えばタンザニアで知られるタンザナイトは美しいブルーのカラーストーンではありますが、残念ながら希少性は高くはありません。一方でルビーはその産地が限定されており、希少性が極めて高いカラーストーンです。このことはサザビーズやクリスティーズといったオークション会社が開催する、ジュエリー・オークションをみてもよくわかります。主催者はオークション開催の前に、オークション・カタログを作りますが、それらをみますとどのオークションでも、赤いルビーの掲載は数点にすぎないことがわかります。

このことからもルビーが他の4大宝石仲間であるサファイアやエメラルド、ダイヤモンドなど比べ、その希少性において、抜きんでた存在だということがわかります。

3. 過熱と非加熱・・・日本人が知らない世界の現実

ただしルビーであれば何でも価値が上がるというわけではありません、まずは熱処理を加えた石は、いくら美しくても、またいくら大きくても、買値より高く売れることはないでしょう。例えば銀座のデパートや有名宝飾店に行きますと、ミャンマー産のピジョンブラッド(注)の加熱済み2カラットのルビーが2000万円で売られていたりしますが、オークションなどで売れる金額は、その1/10がせいぜいでしょう。

注)イギリス王室がミャンマー産の最高級ルビーに与えた呼び名、まるで鳩の血の色の様な深く美しい赤色のルビーのことで、この色を持った非加熱のルビーは驚くほどの高値で売買されます。

ミャンマー産非加熱ルビー、最高級品

(ミャンマー産非加熱ルビー、最高級品)

ルビーの加熱処理は昔から行われてきた技術ですが、これによって石の色合いは劇的に深みを増します、知識がない消費者は、ただその美しさ、安さに魅かれて加熱済みの石を購入してしまうケースをよく見ますが資産性は高くありません、くれぐれもご注意ください。

加熱処理は論外ですが、産地もまたルビーの価値を決める大きな要素です、先ほど申しましたがルビーの結晶が生成されるためには、特殊な環境が必要です。最高の石を産出するミャンマー、なかでもモゴック地方はそのような条件を備えた唯一の地域だといえるでしょう。

ミャンマーのモゴック村にあるルビー鉱山、世界最高峰のルビーの産地として有名

(ミャンマーのモゴック村にあるルビー鉱山、世界最高峰のルビーの産地として有名)

インド大陸がアジア大陸にぶつかってできたのがヒマラヤ山脈ですが、その衝突の過程で高い圧力が地層に加わり続け、なおかつその衝突エネルギーは熱へと変換されます、こうして長期に及び地層に圧力と熱が加わり、時間の経過とともにごくわずかずつルビーの結晶が育っていったのでしょう。さらに本来海の底や地中深くにあったこれらの地層は、大陸同志の衝突によって褶曲し、その一部が地表に現れ今に至る・・その場所がミャンマーであり、さらにいえばモゴック地方だったというわけです。

ただ長年にわたりルビーは掘られ続けた結果、同地において、特に3カラット以上の石が新たに見つかることは稀で、2カラット程度の石でも滅多にみることはできません。私の感触では新たに地中から掘り出される石の数は、2カラット以上の石で年間20個以下ほど、3カラットの石ともなれば、おそらくほんの数個にすぎません。これら新に産出する石に加え、かつて鉱山を所有していたファミリーが代々受け継いできた石も、極わずかずつではありますが市場に供給されているようです。余談ではありますが、彼らにとってももちろんルビーは極めて高価で、例えば一つのルビーを市場に流すだけで、そのファミリーは数世代にわたって生活できるそうです。ちなみに彼らは累代伝わるルビーを、防犯上の理由などから油ツボに沈めて保存してきました。オールド・モゴックのルビーを顕微鏡で視ると、その表面にわずかな油の浸潤がみられることがありますが、これはそのような経緯からで、むしろ価値を高める要素になります。

モゴックで産出するルビーの原石、研磨してカットすれば美しいルビーに

(モゴックで産出するルビーの原石、研磨してカットすれば美しいルビーに)

4. こうやって決まる、ルビーの価格

ではこのルビー、今の相場は一体いかほどなのでしょうか。カラーストーンもコインと同じく、ずいぶんと個体差があります。まずは産地による価格差から見てゆきましょう。上記のようにルビーの最高峰はミャンマーで、なかでもモゴック地方で取れるルビーは別格の値が付きます。例えば同じ1カラットの非加熱石について産地別に比較しますと、モゴック産最高品質ものであればUSD50,000ほど、これに対してモザンビーク産であれば、例え品質が良い非加熱石でもUSD10,000~15,000がせいぜいです。さらにタイ産の黒みを帯びた石であれば、数千ドルといったところでしょう。

また石のサイズが大きくなれば価格は加速度的に高くなります、もしまったく同じ品質の石があったとすれば、例えば1カラットのルビーは0.5カラットの石の3~4倍程度です、同様に2カラットは1カラットの4~5倍、さらに3カラットは2カラットの4~5倍という具合です。上記でモゴック産非加熱ルビーの最高級品をUSD50,000と申し上げましたが、例えば2カラットになればUSD250,000前後、3カラットはUSD800,000程度となるわけです。

ルビーの価格について考える場合、色合いや透明感、内包物の有無なども重要な要素です。例えば1カラットの加熱されたタイ産の暗い色をしたルビーがあったとしましょう、大雑把に申し上げますと、このようなルビーは5万円も出せばお店で買うことができます。一方で仮に以下の様なルビーがあったとしましょう。

  • ビルマのモゴック産、2カラット、非加熱、ピジョンブラッドの最高色

このようなルビーがもし百貨店の店頭に並べば、まず値札が4000万円を下ることはないでしょう。まず産地で10倍、サイズで4倍、熱処理の有無で2倍、色合いと透明度で10倍・・・したがって10倍(産地)×4倍(サイズ)×2倍(熱処理)×10倍(色合いと透明度)=800倍となるわけです。

例えば上記はミャンマーの非加熱ルビーのサンプルですが、左に行くほど色が濃くなります。いわゆるGem Qualityと呼ばれる資産性の高い石は左2つのクラスで、現地の強い太陽光のもとで鮮やかな赤に発色します。Gem Qualityの石のなかでも特に色が濃く鮮やかな石は現地でレディイと呼ばれ珍重されています。その一つ右はJewelry Quality=宝石品質、さらにAccessory Quality=アクセサリー品質というように、色が薄くなるにしたがって低品質との評価を受けます。ミャンマー産ルビーの場合Gem Qualityと呼ばれる最高級の石は、全体の5%に過ぎません。価格も高くGem Quality:Jewelry Quality:Accessory Quality=10:4:1ほどが大雑把な価格比です。ルビーの価格を決めるのは色合いだけではありません、石の透明度や輝き具合(テリといいうます)、雑味や中のキズの有無などによって総合的に判断されます。

ではこのルビー・・・過去の値動きはどうだったのでしょう。先ほどご紹介したように、特に近年産出量が急速に減ってきており、2カラット以上の大粒の石はほとんど採れなくなっています。さらに2016年の政権交代以降、ミャンマー政府は新たな鉱山の産出権を与えておらず、これもルビーの希少性が高まる要因になっています。おそらく自国のルビー産業を長期的に維持するため、できるだけ産出量を抑える目論見があるのではないでしょうか。このため現在新しく市場に出てくる2カラット以上の石の大半は、かつて現地モゴックで鉱山を所有していたファミリーが、市場の値動きを見ながら細々とバイヤーに売るものです。したがってミャンマー産大粒石に限れば、その供給量はごくわずかなものに限られます。一方で需要の方は一向に衰えません、中国経済減速の影響から、ダイヤの動きは緩慢になりましたが、ルビーに関していえば同国の習近平政権による贅沢禁止令の影響は見られません、「上に政策あれば下に対策あり」、依然多くの抜け道があり、彼らの現物資産好みはとどまるところを知りません。よほど自国通貨に対する信頼がないのでしょうか・・・

このような事情から、ここ数年のミャンマー産の非加熱ルビーの価格は急騰しています。私の感覚では直近の10年間ですら3~4倍ほどに値上がりしている印象です。

ただし皆さんがもし資産運用の対象としてルビーを検討されるなら、いくつか注意していただきたい点があります。まずはルビーの流通ルートと価格構造です。これはルビーに限らず宝石類すべてに共通しているのですが、一般には以下の様なルートで消費者の手元に届きます。

  • 現地の鉱山所有者
  • 現地のバイヤー
  • 輸出入商社
  • 日本国内の卸
  • 日本国内の宝飾品店や百貨店
  • 消費者

すべての石がこのようなルートを経るわけではありませんが、一般的にはこのような多段階の業者を通じて石は移動し、当然ながらその都度マージンが乗っかることになります。これもまた一般論ではありますが、例えば銀座や日本橋など有名百貨店の販売価格は、現地の所有者の売値に対し、大雑把に申し上げて4倍から5倍ほどになっているはずです。これはどういうことかといいますと、例えばさきほどのように2カラットのモゴック産ルビーの店頭価格が4000万円だったとしますと、その源流であるルビーの鉱山やファミリーの出し値は1000万円以下だということです。一方で皆さんがこの4000万円を売ろうとした場合どうでしょう、国内の宝石商に持ち込んだとして、せいぜい彼らの買い値は2000万円以下でしょう。言い換えればそれほど彼らの利幅は大きいのです。オークションに出品すれば最終消費者も買い手に加わってきますから、多少高く売れるでしょう。それでも買った以上の価格で売れるようになるまでに、一定の年月を要することになるでしょう。

短期間で投資の結果を出したいとお考えなら、できるだけ中間に位置する業者のマージンを小さくしなくてはなりません。つまりできるだけ川上、言い換えれば流通経路の源流に近いところで購入することが重要で、これはカラーストーンに限らず現物資産すべてに当てはまる鉄則です。現地に直接購入できるルートを持つ宝石店、あるいはバイヤー・・・まずはこのあたりが候補になるでしょう。

ミャンマー現地の宝石の仕入れ風景

(ミャンマー現地の宝石の仕入れ風景)

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