コラム
~きれいな石をさがして~Look for a clean stone
政府が実物資産を買う時代
2019年8月
このところ金(Gold)の価格が上がっていますね。
以下は直近一年間の金価格の推移です。ご覧のように特に6月以降急上昇し、現在は6年ぶりの高値1オンス=1550ドルほどまで上がってきました。
(直近一年間の金スポット価格の推移:Kitco社サイト)より
この上昇には、さまざまな理由があるのでしょうが、その一つとして挙げておきたいのは政府(中央銀行)による買いです。
特に金の保有量を増やしているのは、ポーランド(+100トン)、ロシア(+94トン)、中国(+74トン)ですが、世界的にみても政府の金買い意欲は旺盛です。全世界ベースでみると、今年上期の中央銀行による金買いは374トンで、これはニクソン・ショックがあった1971年以来で最高のペースです。
注)上記( )内数字は今年上期の各中央銀行による、金の買い増し重量
ではなぜ各国の中央銀行は、急に金の買い増し姿勢を強め始めたのでしょうか。
もちろん国ごとに理由はあると思います、例えば中国は政治的な思惑があり、外貨準備としてこれ以上ドルを増やしたくないという面もあると思いますし、ロシアにも同様の思惑があるのでしょう。
ただしそれだけが理由だとは思えません、なぜならたとえばカザフスタン(+51トン)、インド(+41トン)などでも金を買っていますし、ほかにもハンガリー、モンゴルなど新興国の中銀も買っているからです。
注)こちらは2018年度実績
僕の推測を交えて言えば、おそらく特に新興諸国の政府(中央銀行)は、現在の米ドル基軸通貨体制への不安を持っているのではないかと思います。
なにしろ世界の債券のうち1400兆円がマイナス金利という現状は、どう考えても異常です。要するにアメリカや日本、ヨーロッパなど先進国が紙幣を刷りすぎて、おカネが市場にだぶついているのです。
中央銀行(政府)自らが現物資産に資産を分散する構図
このように世界的な超低金利現象の主犯は、アメリカや日本、ヨーロッパなど先進国の中央銀行による政策、つまり量的緩和とゼロ金利政策であることは間違いありません。
金利をゼロ(あるいはマイナス)に誘導しても、経済は思うように浮上せず、いつまでたっても物価は目標圏に達しません。ですから先進国の中央銀行にとって残された唯一の選択肢は、量的緩和(以下QE)しかないでしょう。つまり市場から国債を購入し、その対価として大量に印刷した紙幣を市場に供給するということです。
アメリカは2014年に日米欧では先頭を切ってQEを停止しました、その後、景気加速もあり2017年には逆に量的縮小(つまりQEの逆で正常化です)をはじめ現在に至っています。
ただしそれも怪しくなってきました。
トランプさんが仕掛けた米中貿易戦争の結果、アメリカ経済もスローダウンが始まりました。トランプ大統領からの圧力もあり、FRBは再びQEを開始する方向です。
前回のQEには「金融ショックによる景気後退の回避」という大義名分がありましたが、今回はどうでしょう、「米中貿易戦争のショックの緩和」という理由はありますが、その米中覇権争いは今後延々と続く可能性が高そうです。
日本とヨーロッパはさらに深刻です、確かに日欧は2008年の金融ショックの緩和策としてQEを行いましたが、あれから11年経った今でもQEをやめられません(注)、であればいったい世界はいつ紙幣の大量印刷を止められるのか・・・。
注)ヨーロッパ(ECB)は昨年末QEを停止しましたが、早くも再開論が出てきました。
昨年以降、新興国の中央銀行が大量の金を買い始めた理由の一つは、やはり基軸通貨ドルをはじめ、先進国の通貨に対する信認低下があると思います、つまり
ドル増刷⇒ドルの価値の希薄化
を懸念し、外貨準備をドルから金に置き換えているのではないでしょうか。それにしても皮肉なものです、紙幣の発行量の調整を通し、金融をコントロールする役割を担った中央銀行自らが、現物資産におカネを避難させているのですから・・・・。
中央銀行と比べ自由度の高い個人
紙幣に対する信認の低下は、私たちにとっても他人ごとではありません。私たちも実物資産への分散を進めるべきではないでしょうか、各国の中央銀行が行っているように・・・・。
ただし現物資産投資という点で、私たちは中央銀行より恵まれていると思います。
なぜなら市場規模の点で中銀が投資対象にできる現物資産は限定されているからです。中央銀行が動かす資金は巨額で、市場規模が一定以上大きくなければ自らの投資で市場をゆがめてしいます、ですから金のように一定以上の規模がなければ組み入れられないのです。
これに対し私たちは自由です、自らの投資で市場をゆがめることなどありえません。金だけではなく中国人が大好きな赤い石、スピネルやルビー、ヒスイだって自由に買えるのです。あらゆる現物資産を投資対象にできる点で私たち個人は恵まれているといえるでしょう。
(ミャンマー産ホットピンクスピネル)
(ミャンマー産ヒスイ/ロウカン)