Look for a clean stone

なぜスピネルやルビー、ヒスイが値上がりするのか

2019年8月

アメリカはじめ先進国の中央銀行は、再び紙幣の大量印刷(QE)モードに入りました。その理由を二つ挙げるとすれば

  1. 先進国の少子化などによる、世界経済の構造的な低成長傾向
  2. 米中貿易戦争の泥沼化に伴う、世界的な景気低迷見通し

ということになるでしょう、いずれも短期で解消するとは思えません。

したがって、世界的規模で進むQEの強化は今後も断続的に続き、紙幣の希薄化、紙幣に対する信認の低下も続く可能性が高いと僕は思います。その先にいったい何があるのか・・・、リブラのような仮想通貨が台頭し、通貨発行の主体は政府から企業へと拡散してゆくのか、おそらくここ数年のうちに通貨の未来像が見えてくるのではないでしょうか。

現物資産としての金

紙幣価値の希薄化への備えとして、私たちがとりうる手段は「現物資産への資産の分散」であることはいつも申し上げている通りですが、問題は「現物資産のうち何に投資するか」という点ではないでしょうか。

一つの選択肢は金(Gold)で、これは本レポート冒頭申しましたようにポーランド、中国、カザフやロシアといった新興国の政府と同じ発想です。勝負事が好きな方は銀(silver)もいいと思います。以下は直近一年間の銀価格の推移ですが、ご覧のように足元の銀価格の上昇は顕著で、特に6月以降+18%ほどと加速しました、なお金の同時期の上昇率は8%ほどです。

(銀のスポット価格、直近一年間の推移:Kitco社サイトより)

ただし金にしても銀にしても、値動きが激しいという点は理解しておかなくてはなりません。

以下は金の直近10年間の推移ですが、ご覧のように2013年は年間で30%近くも下落しています。

・2013年の年初1693ドル、同年末1204ドル(年間下落率約29%)

(金のスポット価格、直近10年間の推移:Kitco社サイトより)

金の下落はその後3年ほども続き、半値ほどになってしまいました。さらに下のグラフです、これは銀の直近10年間の推移ですが、過去最高値を付けた2010年以降は下げ続け、2015年には3掛けになってしまいました。

(金のスポット価格、直近10年間の推移:Kitco社サイトより)

貴金属相場はなぜ変動が激しいのか

金にせよ、銀にせよ、あるいはプラチナにせよ、なぜこれほど価格変動が激しいのでしょうか。さきほど中央銀行が金を買っているというお話をしましたが、この答いへのヒントはそこにあると思います。

つまり貴金属は市場規模が比較的大きく、中央銀行のような巨額の資金を動かす主体、広い意味での機関投資家が入り込みやすい市場だからではないでしょうか。中央銀行は比較的長期で持ちますが、機関投資家の中には、ヘッジファンドのように短期で資金を出し入れする主体もあります。

ですからたとえ、

紙幣増刷⇒紙幣の希薄化⇒対極にある金のカイ

というロジックで金を買っても、彼らは何年もそこにいるわけではありません、新しいネタを探し、あるいは自ら新しいネタを作り出し、そこに移動しなくてはならないのです。

このような大きな視点で見れば、現物資産といえども金のように市場規模が大きく、言い換えれば機関投資家が入り込みやすい市場は価格変動から逃れられないことがわかります。その点ではいつも申し上げるように、逆に市場規模が小さく、したがって機関投資家が入りにくい市場は価格変動も限定的で、私たちのような個人投資家には向いていると僕は思うのです。

ここのところそのようなことを裏付ける出来事がありました、オークションでの中国コインの急騰と、ミャンマーにおけるルビーやスピネル、ヒスイなど、中国人が好む石の相場急騰です。

7月から8月にかけて見られた現象

最近のコイン・オークションに関しては、いくつかの特徴的な出来事がありましたが、一つだけ挙げさせていただきますと、中国コインの相場急騰です。

前月、僕はある方から以下の「自動車ダラー」の代行入札を依頼されました、過去の落札事例から僕は、最高入札額を6,500ドル(落札者の総支払額は90万円)と設定しましたが、結果はそれをはるかに上回る10,000ドル(同140万円)でした。

しかも状態は「XF-Detail」に過ぎません。昨年あたりはこのような数字のつかない自動車ダラーはせいぜい50-60万円ほどで買えたのですが、今年に入って驚くほどの相場高騰です。同時に出品された「XF-40」は15,000ドル(同210万円)で落札されました。

(中国で1918年に発行された1円銀貨、通称「自動車ダラー」)

今回は紙数の制限からこの一銘柄のみ紹介させていただきますが、自動車ダラーだけではなく、中国コインでは全般的に同様の現象が見られました。

続いて最近のミャンマー現地でのカラーストーン相場の上昇です。

あいかわらず大粒かつ高品質なルビーの売り物はなかなか売りに出ません、バイヤーさんは「少々ピンキッシュでもやむを得ない」と最近の買い付けツアーでは、少しピンク系のルビーを仕入れてくるようになりました、それですら現地では希少品なのです。

ヒスイも1カラットを超えるロウカンはほとんど売りにでません、スピネルはホットピンク・スピネルがさらに人気化しています、1.5カラット程度までなら一回のツアーで数個仕入れることはできますが、レッド・スピネル同様、中国系のバイヤーが根こそぎ買ってゆきますので、良い石の相場は上昇中です。

(ミャンマーのホットピンク・スピネル/個人蔵)

中国系バイヤーのSNSをチェックしていますと、彼らは積極的にホットピンク・スピネルを仕込んでいることがわかります、レッド・スピネルの売り物が減っているので、中国人向けに仕入れているのでしょう。

なぜ中国コインや赤い石が高騰するのか

でも少し不思議です。

上記で僕は中国人が好むコインや石が値上がりしているというお話をしましたが、ここのところ中国経済は減速しており、少なくとも昨年や一昨年に比べると彼らの投資余力は減っているはずです。

にもかかわらず上記のように中国コインや中国人が好む石の相場は、はかえって加速しています、どうしてでしょう。

一つ目の理由は本レポート冒頭でお話ししたような紙幣に対する不信ではないでしょうか、この点では中国の富裕層がやっていることは中国政府の行動と大差ありません。違うのは米ドルだけでなく、人民元に対する信頼感も彼らは失いつつあるという点だけです。たしかに中国人は人民元の持ち出しを制限されていますが、香港までハンドキャリーすればあとはどうにでもなります。そのようなルートでせっせと現物を仕込んでいるに違いありません。

二つ目理由はモノの枯渇です、この点についてコインには当てはまりませんが、宝石に関してはモノの枯渇が重要な要素になります。ミャンマー政府はお隣のタイを見習い、ルビーやサファイア、スピネルなどを自国の重要な産業として位置付けるはずです、鉱山の採掘権付与の厳格化、採掘料の引き上げ、宝石売買の取引税の引き上げなどを通し、宝石産業での雇用や徴税を拡大する方向ではないかと思います。つまりミャンマーにとって宝石は「金の卵を産む鶏」です、きっとミャンマー政府はその「鶏」の価値を高め、なおかつ長生きさせる政策を採るでしょう。

すでにその予兆はありますが、その観点から見てもミャンマーのカラーストーンの供給は減少するはずで、現在起きているのはそれを見込んだ相場の上昇だと思います。

しかも上記のようにコインや宝石は市場規模が小さく、機関投資家は入ってきません。つまりそれだけバブル化しづらく、相場の変動もさほどないといえるでしょう。

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