コラム
~きれいな石をさがして~Look for a clean stone
最近のミャンマー宝石事情
2018年7月20日
今回は久々にカラーストーンのお話しをいたします、アウンサン・スーチーさんの民主政権が成立して以降、意外なことにミャンマーのモゴックにある宝石鉱山は、徐々に閉鎖方向にあります。以前の軍事政権時代では、軍関連の有力者に賄賂をわたし、一部の民間業者が鉱山の権益を得ていたといわれていますが、新政権の成立以降はそのような悪弊を止めたようです、その結果今では新たな権益を政府は与えず、上記のようにほとんどの鉱山は不稼働状態にあります。天然資源を長期的に活用したいという、現政権の思わくもあるのかもしれません。
ミャンマーのモゴックは、ルビーやサファイア、スピネルなど世界最高峰の石を産出する、いわばカラーストーンの聖地ですが、上記の理由ですでに新たな石が地中から掘り出されることはほとんどありません、したがって現地で売りに出される石の大半は、かつて鉱山を所有していた有力者やそのファミリー、またはその子孫たちが売りに出すものが中心です。彼らができるだけ高く売りたいと考えるのは当然で、一度に大量の石が市場に出てこないのは、このような事情もあるのではないでしょうか。
特に昨年(2017年)以降は状態の良い非加熱ルビーの入手は、日を追って困難になりつつあります、私が現地人バイヤーと直のルートを持っていることは、時々この欄で触れてきましたが、昨年以降その方が現地で買い付けるルビー(実際にはルビーに限らずサファイアやスピネル、ヒスイも同様ですが)は極端に少なくなってきており、今では一回の買い付け(3週間から1か月ほど滞在されますが)で、せいぜいルビー、サファイア、スピネルが各一個ほどに過ぎません、一昨年あたりはその倍ほどは仕入れていましたが・・・、もちろんこれは投資に値する“いい石”のお話しで、例えばピアスに加工する小粒の石や、お若い方がアクセサリーに加工する低品位な石なら、今でもかなりの量を確保可能です。
ルビーの評価基準について
ではどのような石が投資に値する石(Gem Quality)で、どのような石がアクセサリーにむいている石(Accessory Quality)なのでしょう。
この点に関してはさまざまな考えがあるかもしれませんが、僕はまず加熱されたルビーは投資に値しないと思います、なぜなら投資対象として現物資産を見る場合、その希少性が価値の源泉になるからです。一般にミャンマー産ルビーのうち90%は加熱されているといわれています。加熱によってルビーは明るく発色しますので、確かにアクセサリーとして見るならそれで十分かもしれません。が、私たちは石を投資対象としてみるわけです。肉眼で加熱石と非加熱石を判別するのは困難ですが、顕微鏡や計測器を用いれば判別は容易ですし、鑑別書を取れば加熱・非加熱の判別はバッチリ記載されます。ルビーに限らず皆さんが、カラーストーンを投資対象として購入される場合、必ず鑑別書を取るようにしてください。そしてそこに「非加熱」「No Indication of Thermal Treatment」などの書かれていることをご確認ください。
(アメリカ大手鑑定会社GIAによるルビーの鑑別書、赤丸部分にPigeon's Bloodの表記があり、これは最高級ルビーの証しです)
上記はGIA社によるルビーの鑑別書ですが、青線の部分にあるようにNo Indication of Heating(加熱の痕跡なし)です。
色や輝き、透明感も重要な要素です。例えばルビーの場合、下記写真のように石によって色合いが随分違います。業界では一番右が6、その左が5、以下4,3,2と数字でランク付けされるのですが、右に行くほど赤味が増し、左に向かうほど薄くなります。5もしくは5と6の間当たりが最も人気のある色です。実際には1から7で表現しますが、このサンプルでは1と7は割愛しております。
(ミャンマー産非加熱ルビーの色見本)
他にも輝きや透明度といった「美しさ」も石を評価するポイントですが、こちらは以下5段階での評価が一般的です。
S:輝きがあり特に美しいもの
A:かなり美しいもの
B:美しいもの
C:多少美しさに欠けるもの
D:美しさに欠けるもの
もちろんSが最も高価です。
つまりルビーは1~7の数字を用いて「色合い」による分類を行い、SからDで「美しさ」を表現します、例えば5Aとか3Bといいように数字とアルファベットの組み合わせで総合的な評価を行うのです。
どのようなルビーが投資対象としてふさわしいか
ではいったいどのようなルビーが投資対象としてふさわしいのでしょうか、まず「色合い」ですが、1や2程度の薄い色合いは論外ですが、逆に7のような暗い(あるいは黒い)石も価値はありません、一般的に最も人気があり価値が高いのは5と6の間ですが、5や6でも十分でしょう。コストパフォーマンスを重視されるならも4も悪くありません。一方で「美しさ」のほうは明確です、なかがクリアで輝きの強い石はSで、ここが最も資産性の高いクラスです。少し落ちますがAでも十分資産性はあります。
総合評価では5S/5A/6S/6AあたりがGem Qualityとよばれ、投資対象としてふさわしいといえるでしょう。なおミャンマーのモゴック産ルビーの場合、Gem Qualityの割合は全体の5%ほどに過ぎません。
さらに上記のようにここに「加熱」「非加熱」という要素も加わります、いくらGem Qualityでも加熱された石は海外の大手オークションへの出品はできず、それだけ出口戦略は描きにくくなりますが、上記のようにミャンマー産ルビーの場合、残念ながら非加熱石は全体の10%ほどに過ぎません。また非加熱ルビーのうち、5S/5Aあたりを鑑定会社に出した時、Pigeon’s Blood というコメントがつくケースが稀にあります。これは石の価値を高める一つの要素ではありますが、昨今の事例を見ますと、鑑定会社は4や5といった比較的明るい色の石に対してPigeon’s Bloodコメントを与えるケースが多いようで、これは必ずしも市場の評価と一致していません。一方で6Sや6Aあたりの石を鑑定会社に出すとPigeon’s Bloodのコメントがつかない場合が多いのですが、市場ではむしろこちらのほうが高値をつけること多いようです。ちなみにこの6Sあたりの石は昔からミャンマー現地で「レディイ」と呼ばれており、いまでも最も高い人気があります。南国の強い太陽光の下では、このレディイは真紅の輝きを見せるそうで、それが人気を呼ぶとのことです。僕自身は現地の太陽光の下でルビーを見たことはありませんが、いつかモゴックが外国人に開放されたら行ってみたいと思います。
最後にルビーの写真を一枚紹介させていただきます、この石は最近ミャンマーのバイヤーが現地で買い付けた石で、僕のお客様がすでにお買いになったものです。大変素晴らし石で、たぶん今まで僕が見た石の中でもっともきれいな石の一つです。原石状態だった石をみて、そのバイヤーさんは既にハート形にカットすると決めておられたのですが正解でした。ご覧のようなきれいなハート形に仕上がりましたし、照り、透明感、色合い・・・どこをとっても非の打ち所がない素晴らしい石で5S間違いありません。サイズは1.56カラットでその方の買値は400万円でした、銀座の和光の店頭に並ぶとしたら1000万円をくだることはないでしょう。ちなみにですが、先週同店にいくと1.17カラットのモザンビーク産の加熱ルビーが250万円で売られていました。和光に並ぶだけあって大変きれいな石でしたが、先ほど書かせていただいたように加熱石に投資的な価値はありません。400万円は大変良い投資だったと思います。特に強い太陽光の下で見たあの真っ赤な輝きは、今でも僕のまぶたに焼き付いています。
(個人蔵、1.57カラット、ミャンマー産非加熱ルビー)